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長野県豊丘村のリニア工事


本山発生土置き場造成時

長野県の南部に位置する、人口約6500人の村。村の東を走る伊那山脈を境に大鹿村と隣接し、西は天竜川を隔て高森町と、北は松川町、南は喬木村と隣り合っています。


村内のリニアルート


第25回豊丘村リニア対策委員会で配布されたJR東海の資料より

豊丘村を通るリニアルートは約12km。そのほとんどが地下トンネルです。

大鹿村から伊那山脈を貫通して、豊丘村内の坂島、戸中、福島、壬生沢地区の地下を通り、その後壬生沢地区で地上へ出て、喬木村へと続きます。



村内のリニア工事・関連工事


① 伊那山地トンネル坂島工区

・本坑(本線地下トンネル)5.1km

・斜坑(作業用・非常口トンネル)1箇所

・坂島発生土仮置き場

・本山発生土置き場

施工者:清水・大日本土木工事共同企業体

工期:2016年9月29日~2026年9月30日 (2021年7月16日非常口掘削開始)


・下伊那変電所

施工者:中部電力パワーグリット

工期:2019年3月~2024年6月20日


② 伊那山地トンネル戸中・壬生沢工区

・本坑(本線地下トンネル)6.6km

・斜坑(作業用・非常口トンネル)1箇所

・戸中発生土置き場

・豊丘変電所

・壬生沢坑口

施工者:飛島・市川工務店工事共同企業体

工期:2018年9月7日~2026年9月30日(2021年6月28日非常口掘削開始)


※豊丘村で排出される発生土内訳

・坂島非常口トンネルより  100万㎥

・戸中非常口トンネルより   55万㎥ ・壬生沢坑口トンネルより   70万㎥


各地の工事状況


① 伊那山地トンネル坂島工区


■ 坂島非常口トンネル、坂島発生土仮置き場

標高750m、村内を流れる虻川の上流にある「坂島非常口トンネル」は、2019年3月からヤードの整備が始まり、7月末からトンネルの掘削がスタート。ヤードには工事関係者事務所のほか、発生土の成分分析施設が設置されています。

工事現場の東側に当たる虻川護岸には「坂島残土仮置き場」が造成されています。ここは、要対策土(環境基準を上回るヒ素や重金属が含まれる、単純に埋め戻せない発生土)を処分先が決まるまで仮置きする場所で、2021年10月以降に非常口トンネル掘削の際に発生した要対策土が置かれています。要対策土以外の発生土は、最終的には村内にある本山発生土置き場へ搬出される予定ですが、現在は同じ敷地内に仮置きされています。



懸念されること

坂島非常口トンネルの坑口に当たる場所は、過去に土砂崩落が起きて法面がコンクリートで補強されていました。そうした崩れやすい場所にトンネルを掘ることで、再び崩落が起きないか心配されています。

また、発生土への対応についても疑問の声が上がっています。というのも、発生土すべての運搬先や要対策土の安全な搬出先(埋立地)がまだ決定していないからです。にもかかわらず「トンネルを掘り進めても大丈夫なのか」「運び出された要対策土が仮置き場内に置ききれるのか」「要対策土と普通の発生土を同じ場所に置いているが、混ざってしまわないのかが心配。しかもそれをきちんと管理できているのかが不明」と住民の不安が募っています。


非常口トンネル掘削工事のための作業場
坂島発生土仮置場の様子(2021年6月)
 

豊丘村内のリニア工事で、4度にわたり事故が発生

安全性が確保できているのか、大きな疑問が残ります


リニアのトンネル工事では、各地で事故が多発しています。


2021年10月、岐阜県中津川市の「リニア瀬戸トンネル」掘削工事中に、トンネル内で崩落事故が発生。作業に当たっていた作業員2名が死傷しました。

その10日後の2021年11月8日、豊丘村の坂島非常口トンネルの掘削工事中にも崩落事故が発生。トンネル先端を爆破するために爆薬を詰める作業をしていたところ、掘削した部分からおよそ5立方メートルの土砂が肌落ちし、作業員1名が右足のふくらはぎにけがを負いました。

2022年3月1日には愛知県春日井市の「リニア第一中京圏トンネル」で、掘削した場所に吹き付けたコンクリートが剥がれ落ち、作業員がろっ骨を折るなどのけがをしました。この事故を受け、長野県は同月3日、JR側に県内5工区のトンネル工事を中断し、安全管理を再確認するよう要請。坂島工区では7日に工事を中断し、安全対策を確認して翌8日に工事が再開されましたが、その当日に再び事故が発生。トンネル内でコンクリート吹き付け機の配管が詰まったため、配管の一部を取り外して詰まりを解消する作業をしたところ、部材とコンクリートが飛び散り、作業員2人が軽傷を負いました。

2022年4月15日、坂島非常口トンネル内で作業員が左手を鉄板に挟まれ、人差し指と中指を骨折する重傷を負いました。長さ3メートル、重さ800キロの鉄板を足元に敷く作業中の事故で、JR東海によると作業中にオペレーターが重機を動かしてしまったのが原因ということです。

さらに2022年9月8日、戸中・壬生沢工区で作業員がバックホーにひかれて重傷を負いました。


豊丘村内のトンネル工事では、2021年11月から4回にわたって事故が繰り返されています。

JR東海は県に対してルールの順守や安全確保の意識が不足していたことが原因だと報告していますが、事故は相次いで発生しており、実際に安全確認と確保の徹底がされているのかどうか、大きな疑問を抱かずにはいられません。また、一連の事故におけるJR東海の情報公開の消極的な姿勢には、県や自治体も苦言を呈しています。



■ 本山(ほんやま)発生土置き場 

標高850~950m、虻川の上流に位置するジンガ沢最上流部に位置する、深い谷が広がるエリア。開発面積は9.3ヘクタールで、そのうち9.15ヘクタールはトンネル発生土置き場の工事のために保安林指定(※)が解除されました。2019年11月から工事が始まり、木の伐採、進入路の造成工事、地下排水管の設置工事が進んでいます。ここは侵食によってできた広い谷地形になっていて、坂島および戸中非常口トンネルから出る膨大な量の残土130万㎥で埋めて、整地される計画です。最高盛土は50mとされています。


※保安林制度は、人々の暮らしを守るために重要な役割を果たしている森林について、その機能が失われないよう適切に管理していくために定められている制度。本山地区は、水源を守り、水を蓄え、洪水や渇水の発生を防ぐ「水源かん養保安林」に指定されていました。


懸念されること

「谷」は、山に雨が降った際に川となり、水が流れ下って大地が削られたことからできあがった地形。そうした場所を大量の土砂で埋めると、豪雨時にその土砂が下流域に流れ出てしまう危険性があります。豊丘村を含め、長野県南部の伊那谷地域は、昭和36年に梅雨の大雨で大規模な土砂崩れが起きて、甚大な被害を受けました(「三六災害」として、地域で語りつがれています)。

さらに、地元の地質学者・松島信幸氏は「本山は伊那山脈の中でも最も脆弱な花こう岩地帯がある」と言います。(引用:しんぶん赤旗. 2021年8月10日)。そこに東京ドーム1杯分以上、2021年に静岡県熱海市で起きた土石流の要因となった盛土の28倍の残土が置かれるのです。

虻川下流虻川下流域には民家が立ち並び、村の小学校や保育園があるなど人々の生活圏になっています。暮らしの場の安全は保たれるのか、下流域の住民からは不安の声が上がっています。

また発生土を人工的に盛り土する際は、その盛土が崩れないよう安定させるために、盛り土内に排水管を設置して浸透した雨水などを適切に下流に排水する必要があります。排水管は人工物なのでいずれ劣化が進み、永久的に使えないことから、盛土後の排水機能や土地の管理の責任について心配する住民もいます。


※住民団体「虻川の安全を願う会」は、2021年8月12日、国土交通大臣、長野県知事、豊丘村村長に対して「虻川上流リニア残土置き場計画の安全再確認要望書」を提出しています。

(リンク:飯田のリニアを考える会HP)


広範囲にわたって木を伐採し、造成されている本山の発生土置場。埋め立てが予定される発生土130万m3は、

東京ドーム約1個分の体積と同じ


■ 下伊那変電所

山あいに位置する上佐原地区で、変電所の建設工事が進んでいます。この変電所は、村内を通る高圧走電線「南信幹線」からリニア中央新幹線に電力を送るために電圧を変換するために建てられるもの。JR東海が村内の柏原地区に設置する「豊丘変電所」、大鹿村に建設予定の「小渋変電所」と送電線でつながり、電力を送ります。

面積は8~9ヘクタール。2019年3月にヤードの造成が始まり、鉄塔及び送電線の工事も進行していて、各地で木の伐採や整地、鉄塔の組み立て、架線工事が進んでいます。


変電所建設のために、造成され進む工事


② 伊那山地トンネル戸中・壬生沢工区


■ 戸中非常口トンネル、戸中発生土置き場

標高600m、佐原地区戸中で進んでいる非常口トンネル掘削工事。2021年3月からヤードの整備が始まり、6月末からトンネルの掘削が始まりました。現場にはトンネルから出された残土の成分分析のための施設が置かれ、残土を運び出すためのベルトコンベアーも設置。ベルトコンベアーは24時間運転していて、運ばれた残土は、付近を流れる沢を埋めて置かれることが決定しています。2022年7月で斜坑掘削が終了し、現在は、本坑の掘削に入っています。


懸念されること

トンネル掘削地の下流域では、湧き水で生活している世帯があり、地下トンネルを掘ることでの井戸が枯れてしまわないか心配する声が上がっています。また、残土を運び出すためのベルトコンベアーが24時間運転することによる騒音や、トンネル掘削に伴う発破で生じる振動を懸念する声も。「ベルトコンベアーに騒音防止のふたをつけて欲しいが、JR東海から対応策はあげられていない」との声も聞こえてきます。

また、沢を埋めることによって起こる可能性のある、豪雨時の土砂災害を心配する住民も多数います。




地上高さ4.5~9.3メートル、全長230メートルにも及ぶベルトコンベアが山間部の生活道路上に設置されている


■ 豊丘変電所

果樹園地帯が広がる柏原地区に、面積約6.5ヘクタールの変電所の建設が計画されています。上佐原地区にある下伊那変電所とつながって電力を引き込み、リニア新幹線に電力が送られます。建設用地の取得は終わっていますが、工事は始まっておらず、現在は農地がそのまま広がっています。変電所の周りでは送電線を架けるための鉄塔建設工事が進行中です。


懸念されること

村営住宅の真上を送電線が通るため、電磁波の影響が心配されています。鉄塔や送電線が建つことによって、村の景観へも影響があるのではないかとの声もあります。

変電所建設工事のために、農地を手放して他の畑を借り果樹栽培を始めた農家がいるそうですが、まだ工事自体が始まっていません。もう何年かは果樹栽培が続けられた可能性があり、人々の仕事や生活に影響が出ています。


民家のすぐ側に建てられた鉄塔。ここにさらに電線が架けられる予定


■ 壬生沢坑口

村内でリニアが地上に初めて出てくるトンネルの出口です。路線用地の取得はほぼ完了し、坑口直下に建っていた家屋も解体されました。一方で、地上に出てから村内の壬生沢川を斜めに横断する橋脚工事では、河川の流れを変更する大規模な工事が必要になるため、それに関わる用地取得は現在交渉中とされています。

以前、壬生沢坑口へと続く非常口トンネルの工事が計画されていましたが、用地の取得ができなかったため、非常口は掘らずに、本線のトンネルを直接掘ることになっています。


懸念されること

壬生沢坑口の周りには残土を置く土地がなく、トンネルを掘った場合に発生土はどうするのか疑問の声が上がっています。

 また、2020年6月から7月にかけて降った大雨で、坑口予定地の斜面で土砂崩落が発生。土砂は村道を越えて、付近を流れる壬生沢川右岸を通ってた農業用水路を埋めました。工事予定地で崩落が起きたことで、その場所でトンネル工事が行われることへの不安が募ります。



関連情報参考サイト



(2019年3月から33回にわたって本山残土置き場への懸念に関する連載記事を掲載)




執筆:名取裕美


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